SUSHI: THE GLOBAL CATCH

寿司はどのようにして世界の料理となったのか

東京の屋台からはじまった、シンプルであり上品なこの料理は、ここ30年の間に世界中で食べられるようになった。『Sushi: The Global Catch』は2年の歳月を費やし、寿司がどのように世界的発展を遂げたのかを追ったドキュメンタリーである。魚とシャリの美しい組み合わせは、いまやワルシャワからニューヨーク、テキサスの高校フットボールのスタジアムでも見られる。『Sushi: The Global Catch』は「寿司の人気の高まりは今後何の問題もなく続くことができるのか」という問いを投げかける。本作品は今後無視できない課題に警鐘を鳴らす。

 

寿司の中心地:東京

寿司の中心地といえば東京であり、そこでは『ミシュランガイド東京』にも掲載された『銀座 寿司幸本店』のオーナー兼職人である杉山衛氏が、彼の裕福なお客の舌を満足させるため、マグロや他の魚を毎日厳選している。杉山氏はひとりの見習いを一人前の板前にまで育てるのに7年以上を費やし、また見習いには毎日厳しい課題を与える。『銀座 寿司幸本店』は1885年創業、杉山家によって今日まで継承されてきた伝統的な寿司屋である。杉山氏はネタの質にこだわり、これからも養殖の魚は使わない。しかし、中国などにみられる寿司マーケットの爆発的成長によって、天然の魚を得ることは年々難しくなってきている。

寿司が世界の人々に届くまでの過程を収録するため、築地市場において昼夜撮影を行った。午前3時撮影開始。世界中の寿司屋に発送される魚の模様を描くのに不可欠なマグロの競りの様子も含まれている。

マグロの漁獲、販売、流通、そして数百万の寿司ファンのためへの仕込みにまで辿りつくには、複雑で世界規模的なインフラが必要とされる。例えばそのひとつとして、1970年代に日本航空(JAL )が アメリカから日本へ戻る際にほぼ空であった747ジャンボ機を埋めるために始めたマグロの空輸がある。『Sushi: The Global Catch』は、1971年に初めてニューヨークから東京までマグロを空輸し「寿司のグローバル化の父」とされているJAL Cargo元取締役、岡崎涁氏へのインタビューをおこなった。また本作品には、東京と世界中の寿司屋をつなげる魚の空輸の出発点を描いた当時の貴重な資料映像も納められている。

 

寿司の爆発的普及

『Sushi: The Global Catch』はテキサス州オースティンにおいて、フルーツなど伝統的ではない食材を使い「ニュー・アメリカン・スタイル」というユニークな寿司を手がける寿司職人Tyson Cole氏にインタビューをしている。Cole氏は独学で料理を学び、今やアメリカの寿司職人の間では有名であり、『アイアン・シェフ・アメリカ(Iron Chef America)』では森本正治氏と対戦している。

Cason Trenor氏はサンフランシスコで世界初の「持続可能な」寿司レストランを開店した。環境活動家で関連著作もあるTrenor氏は、現在世界中の寿司ビジネスに流通している、絶滅が危惧されている鮮魚の全面利用禁止を訴えている。彼の寿司レストラン『たたき(Tataki)』はベイ・エリアで最も人気のある店の一つに選ばれたが、その理由の一つは、取り扱う魚は全て持続可能なものであり、その取り組みが常連客に高く支持されたからである。Trenor氏が訴える寿司に使われる特定魚の全面禁止〜養殖サケ、うなぎ、クロマグロなど、絶滅危機にあるもの全て〜は、いまや他の寿司レストランからも注目を集めている。

 

世界各国での撮影

2008年3月に制作を開始した『Sushi: The Global Catch』は、最初の撮影地として東京を訪れ、築地市場での競りの模様など10日間以上を費やし撮影を行った。また、1880年代に創業され『ミシュランガイド東京』にも掲載された『銀座 寿司幸本店』での撮影が許可され、杉山衛氏にインタビューを行った。『銀座 寿司幸本店』での撮影が許可されたのはこれが史上初めてである。

またオーストラリアでは、養殖用いけす内での海面下のマグロの様子や、Hagen Stehr氏所有のマグロ養殖実験場を撮影した。海外4カ国(日本、オーストラリア、シンガポール、ポーランド)及びアメリカ国内(サンフランシスコ、モントレー、オースティン、ダラス)にて、合計数百時間に及ぶ収録を行った。

 

世界の海洋への寿司のインパクト

様々な意味において、寿司は「グローバル化」した。一昔前までは日本でしか見られなかった寿司は、爆発的に世界中に広がり、それを支える産業ができあがっていった。消費者のお腹を満足させるため、高価なごちそうは大衆化されて手頃な値段となり、レストランからスーパーマーケット、さらにはテキサス州オースティンなどでみられるように、トレーラーでさえもファストフードとしての寿司が売られている。一人前の寿司職人になるために何年もの修行が必要な伝統は姿を消し、そこには短期間でのトレーニングと機械化による大量生産が存在する。

一方で寿司への渇望は、クロマグロなど海における頂上捕食者の絶滅の危機をもたらしており、それは世界の海における生態系のバランスを破壊し、さらには海洋生物全体を死滅させてしまう恐れがある。水産学者が保護の必要性を強く訴え、またグリーンピースや世界自然保護基金などの団体がこの危機に世間が注目するよう直接行動しているのにも関わらず、世界各国の政府による対応は非常に遅いのが現状である。

考慮すべきいくつかの事柄として以下の点が挙げられる。

  • 中国における寿司の消費人口は 毎年5千万人増加しているといわれている
  • グリーンピースによれば、地中海におけるクロマグロはあと3〜5年で絶滅する
  • 水産学者Boris Worm氏によれば、商業的水産資源は2043年までに枯渇する
  • 天然魚はなくなるかもしれないが、新技術によって寿司ネタ用の魚は完全養殖が可能になるかもしれない

ライター、レストランのオーナー、またグリーンピースの運動家であるCasson Trenor氏やCenter for the Future of the Oceans の Mike Sutton氏など環境専門家へのインタビューでは、多くの消費者は寿司を、かつて日本において考えられていたような特別なものではなく、単に便利な食べ物として捉えており、それが海の危機をもたらしていると語っている。凄まじく成長しているこの産業に対する各国政府による規制はことごとく失敗している。この問題の解決は現状をよく理解した消費者の手にかかっている。

本作品ではさらに、モントレー・ベイ水族館によって作成された、どの魚が絶滅の危機にあり、また代わりとしてどの魚を注文すればいいのを消費者に教えてくれるプログラム『シーフード・ウォッチ』を紹介している。モントレー・ベイ水族館は「自分はいま何を食べているのかを学び、またそれがどのような結果をもたらすか、消費者ひとりひとりがもっと責任を持つようになれば、それが今後大きな変化をもたらすことができる」と信じている。

寿司がどのように世界の料理になったのかを描くため、専門家、寿司職人のほか、寿司に関連する多くの人々に世界中でインタビューを行った。主な出演人物は以下の通りである(順不同、敬称略)。

杉山衛 ―東京の寿司職人の中でトップのひとり。1885年創業、杉山家によって今日まで受け継がれてきた寿司屋で伝統的な寿司を提供する。見習いの修行の方法等を語る。

Mike Sutton ―Center for the Future of the Oceansディレクター兼モントレー・ベイ水族館副館長。海の持続可能性に関する専門家。魚類保護に対する政府の失敗、寿司の将来について語る。

Alistair Douglas ―海洋生物学博士。オーストラリア、ポートリンカーン沖で養殖されたクロマグロを売るために世界中を旅する。日本語が堪能で、築地市場にて自らのマグロを競売にかける数少ない西洋人のなかのひとり。

Casson Trenor ―グリーンピース活動家。世界初の「持続可能な寿司」レストランをサンフランシスコにて開店。絶滅危惧種に代わる魚を客に提供。

Hagen Stehr ―オーストラリアで最も裕福な人のひとり。巨額を投じて寿司のネタになる良質な魚を飼育するための実験場をもつ。

Tyson Cole ―「ニューアメリカン」寿司のシェフ。テキサスで皿洗いから始める。寿司レストランを新たに6軒開店予定。料理本も出版。『アイアン・シェフ・アメリカ』に出演。

 

制作スタッフ

監督マーク・ホール(Mark Hall)はテキサス州オースティン在住。『Sushi: The Global Catch』は彼が手掛けた初の長編ドキュメンタリー映画映画であり、ポーランドのワルシャワに滞在中、本作品を思いつく。東欧での寿司の人気に驚くと同時に、寿司が経済のグローバル化の早さを象徴しているように思えた。彼は1998年に世界最大のオンライン教育の立ち上げに携わる経験がある。また彼のビジネスと法曹界での経験が本作品の制作に多いに活かされている。前作品『Mission On Seven』は2010年ヒューストン・ワールドフェスト映画祭でプラチナ賞を受賞。日本での留学経験があり、大の寿司好き。

制作・監督のマーク・ホールの他、編集はサンドラ・アデアー(Sandra Adair) (A.C.E)、ケイティ・カッチ(Catie Cacci)が担当。音楽はブライアン・サタホワイト(Brian Satterwhite)。

アデアーはこれまでアカデミー監督賞候補リチャード・リンクレイター(Richard Linklater)の15作品を担当する。最近ではダン・ラッシュ(Dan Rush)監督、ウィル・フェレル(Will Ferrell)主演『Everything Must Go』を編集。またリチャード・リンクレイターの最新作『Bernie』を編集する。

カッチは8年以上の間フリーランスのエディターとして活躍。2010年のサウス・バイ・サウス・ウエスト(South By South West)にて観客賞を受賞した長編ドキュメンタリー映画 『Richard Garriott: Man on a Mission』を編集。

サタホワイトはこれまで『Richard Garriott: Man on a Mission』、『Atrois the Goat』、『Quarter to Noon』、『The Children’s War』、『Cowboy Smoke』、『Mr. Hell』、さらに受賞作『Ride Around the World』など、計90以上の短・長編映画の作曲を担当。また、Park City Film Music Festivalにて、過去にゴールドメダル11回、シルバーメダル3回受賞。さらに、ウェブ・シリーズでのベスト・スコアーとしてIndie Intertube Award受賞のほか、Telly Award音楽部門銅賞。2001年にはTurner Classic Movies 主催のthe Young Film Composers Competitionにて最終ノミネート候補となる。


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